④
せつせつと伝わってくるものの、決して激情に駆られて書かれたものではない。むしろ
(注9) (注10)
よくここまで冷静に書けるものだと感心するくらいなのだ。
もちろん被害者には被害者の人生がある。しかし学生たちは、その人生に豊かな社会的
想像力を動かせるわけでもなく。単に、被害者側の見解だけでは一方的だと主張する。
杓子定規に客観的.中立的立場を求めなければいけないと思い込んでいるようなのだ
(注11)
まるで立場の異なる二者の間で意見の対立が見られた場合には、足して二で割ればちょうどよいとでも言わんばかりに。
なぜ学生たちは、加害者と被害者の対立図式にこだわり、著者が訴える問題の社会的広がりに気づかないのか。もどかしい思いでリポートを読むうちに合点がいった。例の「人
(注12) (注13)
それぞれ」である。
あらゆる意見が私的なものであれば、娘の交通事故死を経験して「くるま社会」の異常
さを訴える父親の主張も一つの個人的の立場に過ぎず、その意味では加害者の立場と等価なのだ。主張の対立のなかから、あるべき社会の姿を模索する努力を放棄したとき、社会正義は足して二で割るというような手続き上の公平さに求めざるを得ない。
(小笠原祐子「『何でもあり個人主義』の退廃」2000年7月11日付朝日新聞朝刊による)
(注1) 矮小化する:重要でない、小さいことにする。
(注2) 禁句:避けて使わないようにする言葉
(注3) 蔓延する:大きく広がる
(注4) 対峙する:向き合って立つ
(注5) 加害者:他人に危害を加えた人
(注6) 執行猶予:刑を一定の期間実行しないで、その期間を事故なく過ごした時に
は、刑を受けずにすむ制度
(注7) 刑務所:刑が決まった人を収容するところ
(注8) ~に手厚い:~を大事にする
(注9) せつせつと:人の心を動かすほど強く
(注10) 激情にかられて:激しい感情に動かされて
(注11) 杓子定規に:一つの標準、形式ですべてを決めようとする融通のきかないや
り方で
(注12)もどかしい:思うようにならなくてイライラする
(注13)合点がいく:意味がよく分かる
問1 筆者は学生について①「以前からきになることがあった」としているが、それは
どのようなことか。
1 自分とは考えの違う人の意見を無視して議論を進めようとすること
2 正しい議論にまとめるために、たくさんの人の意見を聞きすぎること
3 いろいろな意見を出し合うが、お互いが理解している気にしないこと
4 それぞれが自分の意見を言うが、一つの結論を導く姿勢を持たないこと
問2 筆者はなぜゼミで②「人それぞれ」を禁句にしたのか。
1 一人一人の考え方や好みが違うということを学生たちに認識させるため
2 それぞれが自分の選んだ社会問題を議論したいと思っても一度にできないため
3 個人的な問題は社会問題と比べたら小さいもので、議論するものではないため
4 個人の考え方の違いで済ませるのでなく、社会全体のことを考えて議論するため
問3 二木氏のお嬢さんをはねた車を運転していた人の事故後の状況について、正しいものはどれか。